おもむろに研究 そこはかとなく描く

M in the Wind

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冷えた川の上を撫でる風が僕らの鼻先をツンと冷やしていた。
年が明けたばっかりのこの日に、僕らは寒々とした川沿いの道を歩いていた。









忘れないようにここに書いておこう。
あの日、僕は昼寝をしていたあなたを起こしてワンピースに着替えさせ、外に連れ出した。
と言ったら僕の自分勝手のように聞こえるけれど、
あなたが約束を忘れるくらいぐっすり眠りに落ちていたんだ。
ヒラクとの待ち合わせの時間には少しあったから、僕はまたあなたにモデルを頼んだんだ。
あなたはホイホイっと呑気に着替えを済ませて、
風邪引きそうだよなんて言いながら、身がキリリと引き締まる冷たい風の吹く外に出た。
外にはまだ、数日前の雪が残っていた。


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白いワンピースを着て、麦わら帽子をかぶって、夏の日の堤防を歩く写真を撮ってみたい。
ずっと前からそう話していた。
あなたは少し意地悪そうな表情を目の端に浮かべて、黒のコートを羽織った。
僕は少し困惑したけど、直ぐにニヤリと笑ってこう言った。
また次があるってことだね?


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僕はあなたの服の趣味を知らない。
こんな色の服も着るんだね。
そう思って写真を撮っていた。
ヒラクからの連絡は未だ無かった。
お互いの実家の正月の風景を話したりしていた。
あなたの口からは、食べ物の話しか出てこなかった。


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僕らの後ろには夕焼けが見えていた。
あなたはそれを背にポーズをとっていた。
夕日の逆光は撮るのが難しいんだよ。
でもノリノリのあなたにはその事は伝えなかった。
綺麗な写真を撮る事よりも、その時間を残していたかった。
この冬、あなたはいい顔をしていた。


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あなたは口ほどになく弱気だ。
そこは僕と似ている。
僕と違う所は、僕は試しに舟を漕ぎ出してみる事。
あなたは岸からこちらの方を遠くに眺めて笑っている。

港に戻るとあなたに海の向こう側の話をしたりする。
あなたはいつもずっと聞いてくれている。
いつか私も連れて行ってね、なんて言いながら。



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あなたは知らないんだよ。
いつも僕が舟を漕ぎ出す時、
あなたが最後に、舟をトンと軽く押すんだ。


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ついにヒラクからの連絡は来なかった。
後で分かった事だけど、ヒラクはあの正月、家に居た方が良かったんだ。
どうせ酔っぱらってコタツで寝てたんだろうけど、あの日僕らはヒラクを連れ出さないで良かった。

日はすっかり暮れてあなたの顔も分からなくなっていた。
最後にコンビニの明かりで一枚写真を撮った。
暗くて何が撮れたか分からなかった。

今なら分かるね。
あなたは笑っていたんだ。
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by onwa-nukukazu | 2011-02-17 01:12 | friend